悲しいくらい彼らしかった

事務所の前のスーパーに小さなタクシー乗り場がある。彼はタクシードライバーでいつも私の姿を見つけては車の窓を開け話しかけてくれていた。奥さんをがんで亡くしてからは働く気力はないと言っていたが、患者さんの役に立てばと「がんケアサロン」の事務局を手伝ってくれていた。頑固だが男気のある優しい兄貴のような存在だった。ある日、「肺がんになり、余命1年と宣告された」と聞かされた。あまりのことに気の利いた言葉一つかけられなかった。延命治療はしないと拒否し、好きなタバコも止めなかった。だんだん体調が悪化し最後は入院。見舞いに行っても「ボランティアの会費にしてくれ」と言って逆に寄付してくれた。「医者が言うようにやっつぱり1年しか持ちそうにないから」と言って3年分の会費を渡された。悲しいくらい彼らしかった。亡くなって3年、いまだにタクシー乗り場で彼の姿を探してしまうことがある。そんな時、空を見上げては〈千の風になって旅しているのかなあ・・・〉と想う。

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